top of page

148件の訴訟、3500万ドルの和解、株価19%暴落——Robloxを揺さぶる子ども安全危機の全貌

  • 5月20日
  • 読了時間: 6分

▲ Robloxアプリ。世界1億5100万人の日次ユーザーを持つが、2026年に入り米国各州から相次いで提訴された


Robloxは今年、創業以来最大規模の法的・財務的危機に直面している。2025年末から続く米国7州の司法長官訴訟、2026年5月時点で148件に膨れ上がった連邦集団訴訟、そして8日間で3500万ドルを超えた州との和解。これらの圧力を受けて実施した安全対策が、逆に2026年通期の業績予測を約9億ドル引き下げる「二次被害」をもたらした。子どもたちの遊び場として世界に普及したプラットフォームで、何が起き、どう変わろうとしているのかを整理する。



なぜ今、Robloxが問われているのか


事態の起点は2022年に遡る。ソーシャルメディア被害者法律センターがRoblox初の訴訟を起こし、プラットフォームが「安全な空間」を標榜しながら少女への性的搾取を看過していたと主張した。その後、同様の訴訟が積み重なり、2025年12月に連邦多地区訴訟(MDL)として統合された。2026年5月時点で148件にのぼる。

米国州政府の動きも加速した。ルイジアナ(2025年8月)、ケンタッキー(同10月)、テキサス(同11月)、フロリダ(同12月)が相次いで司法長官訴訟を提起。2026年2月19日にはロサンゼルス郡がカリフォルニア州初の政府訴訟を起こし、郡顧問が「Robloxは捕食者に子どもを狩るための強力なツールを与えている」と告発した。訴状はカリフォルニア州不正競争防止法と虚偽広告法への違反を主張し、1日あたり最大2500ドルの民事罰と抜本的な運営改善を求めている。

▲ ロサンゼルス郡を含む7州の司法長官がRobloxを提訴。2026年5月時点で連邦MDLに148件の訴訟が集中する



プラットフォームで実際に何が起きていたか


訴訟が明らかにしたのは、プラットフォームの構造的な脆弱性だった。2024年11月まで、Roblox上では任意のユーザーが子どもにフレンド申請を送り、メッセージを送ることができた。年齢は自己申告制で保護者承認の仕組みも形骸化していたため、成人が子どもに成りすますことは容易だった。ロサンゼルス郡の訴状を分析したMalwarebytesのレポートによれば、7歳のアバターが仮想プレイグラウンドで性的暴力を受けた事例や、Jeffrey Epstein島を題材にしたゲームが実際に稼働していた事例が含まれている。

捕食者の典型的な手口はこうだ。ゲーム内でアバターを通じて子どもに近づき、称賛の言葉や少量のRobuxを贈りながら信頼を築く。関係が深まると、RobloxのモデレーションAIが届かないDiscordやSnapchatへ会話を移行させ、その外部プラットフォームで性的な要求をエスカレートさせる。2025年にはテキサス在住の15歳少年がこの手口でグルーミングされ、性的画像の送付を強要された末に自殺した事案も表面化した。また2025年2月のサンマテオ訴訟では、27歳の加害者がプラットフォームの「ウィスパー」機能を使って13歳少年に接触した詳細が明らかになり、弁護団はRobloxを「デジタルと現実における悪夢」と表現した。

▲ 2026年1月7日、Roblox公式が発表した顔年齢確認義務化のバナー。チャットにアクセスするには顔スキャンが必要になった



法的決着と経済的打撃


2026年4月、Robloxは8日間で3件の州との和解に応じた。ネバダ州との1200万ドル(4月15日)を皮切りに、アラバマ州1220万ドル、ウェストバージニア州1100万ドルと発表が続き(同21日)、合計3520万ドルを超える出費が集中した。各州の和解金の使途はそれぞれ異なり、アラバマ州は学校安全担当官の配置に、ネバダ州はボーイズ&ガールズクラブへの寄付とネット安全教育キャンペーンに、ウェストバージニア州はインターネット安全専門家の6年間配置に充てられる。

この法的圧力への対応がユーザー体験に影響した結果は、決算数字に直接現れた。2026年5月1日発表のQ1決算で、Robloxは2026年通期のbooking予測を従来の82億8000万〜85億5000万ドルから73億3000万〜76億ドルへと約9億ドル引き下げた。CFOのNaveen Chopraは「年齢確認展開による二次的影響——バイラル拡散の低下、アプリストアの評価悪化、新規ユーザー獲得の鈍化」を要因として挙げた。株価は発表翌日に19%下落し、安全対策とビジネス成長のトレードオフが市場にも可視化された。

▲ Robloxの年齢帯別チャットグループ設計。16歳未満と成人が直接会話できない仕組みを採用した



Robloxが打った対策と残る課題


Robloxは2026年1月7日、チャット使用に顔年齢確認を全世界で義務化した。AIベンダーのPersonaが提供する顔年齢推定システムを使い、利用者全員がカメラで顔をスキャンして6段階の年齢帯(9歳未満〜21歳以上)のいずれかに分類される仕組みだ。大規模プラットフォームとして初めてすべての年齢層に顔認証チャットを義務化した事例として、Robloxは業界標準構築を目指すと公言する。オーストラリア・ニュージーランド・オランダでの先行導入では、50%以上の日次アクティブユーザーが認証を完了したとRoblox側は報告している。

さらに6月からはアカウント体系を3段階に分割する。5〜8歳向けの「Roblox Kids」はチャット機能を完全無効化し、暴力や性的表現の少ないゲームのみアクセス可能。9〜15歳向けの「Roblox Select」は同年齢帯内のチャットのみに制限し、16歳以上の標準アカウントとは直接会話できない設計だ。ただし課題も残る。ネブラスカ州の訴状は「14歳が17歳と誤分類されて成人チャットグループに入った事例が確認されている」と指摘した。また、Personaの顔認識システムが政府ID・デバイスフィンガープリント・生体情報を最大3年間保持していたことが2026年2月に発覚し、Discordはすでに同社との契約を解除した。Robloxは現時点でもPersonaを継続利用している。

▲ Roblox公式が示す多層型安全システムの概念図。年齢確認はその一要素に位置づけられている



日本の保護者・教育関係者が今すべきこと


今回の訴訟や和解はすべて米国で起きた出来事だが、Robloxは日本でも多くの子どもが利用するプラットフォームだ。チャットでの接触から外部アプリへの誘導というパターンは地理的に限定されない。まず確認すべき設定は3つある。一つ目は「保護者インサイトダッシュボード」の有効化で、子どものチャット相手と接続状況を把握できる。二つ目はチャット設定を「承認済みフレンドのみ」に絞ることで、見知らぬ成人からの接触リスクを大幅に下げられる。三つ目は、アカウント設定でフレンド申請の受け入れを制限することだ。

技術的な制限だけでは追いつかない部分も大きい。RobloxのCEO自身がBBCの取材で「不安があるなら使わせないことが最初のメッセージだ」と述べたように、プラットフォームを信頼することとリスクを理解することは分けて考える必要がある。子どもとの対話は「一度話せば終わり」ではなく、日常的に続けることが有効だ。「会話を絶対にアプリの外に持ち出さない」「Robuxをくれる見知らぬ人は信用しない」という具体的な言葉で伝えることが、抽象的な注意より効果がある。6月に導入される年齢別アカウント体系は、子どもの利用環境を保護者が改めて見直すよいきっかけとなるはずだ。

▲ Roblox公式Tech Talksポッドキャストで年齢確認の実装思想を公開。業界標準の策定を目指す姿勢を示した


bottom of page