3つの訴因、3つの戦場──連邦MDL 146件・7州AG・依存症設計訴訟が問いかけるRobloxの責任と日本ブランドへのリスク
- 5月9日
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2026年春、Robloxは複数の戦線から法的包囲を受けている。連邦裁判所には子どもへの性的搾取に関する集団訴訟(MDL 3166)が146件積み上がり、7つの州検察官が「欺瞞的な安全対策」を問う訴訟を新たに提起し、カリフォルニア州裁判所では「依存症設計」をめぐる別の訴訟群(JCCP 5363)が並行して進んでいる。さらにEUでは、デジタルサービス法(DSA)に基づくオランダACMの規制調査が2026年1月に始まった。
Q1 2026決算で売上39%増を達成した一方、DAUは1,200万人減少し、通期見通しを約10億ドル下方修正したRoblox。株価は4月30日に20%急落した。安全への「意図的な投資」がコストとして可視化されるなか、3つの訴因が法廷で問われている構造を理解することは、プラットフォームに参入しているブランドにとっても、子どもを持つ保護者にとっても不可欠だ。今回は訴訟の全体構造、各戦線の現在地、そして日本が取るべき示唆を解説する。
連邦MDL3166の現在地 — 146件・特別調停人が就任し全体和解へ
MDL(多地区訴訟)3166、正式名称「In re Roblox Corporation Child Sexual Exploitation and Assault Litigation」は2025年12月、連邦司法委員会がカリフォルニア北部地区のリチャード・シーボーグ首席判事のもとに集約することを決定した訴訟群だ。子どもへのグルーミング、性的搾取、性的暴行をRobloxのプラットフォームが可能にしたとする訴えを一本化したもので、ケース数は2025年末の55件から2026年1月に85件、3月に132件、4月に146件まで急増した。4ヶ月で72%増という速度は、被害家族の認知が広がっていることを示している。
2026年2月、シーボーグ判事はオバマ政権下で連邦司法副長官を務めたトーマス・J・ペレリ氏を「特別調停人(special master)」に任命した。大規模集団訴訟において特別調停人の就任は「全体和解が本格的に動き出すシグナル」とされ、類似のSNS依存症MDLでは任命後12〜24ヶ月で和解が成立している。現在進行中のディスカバリー(証拠開示)では、プレデター報告書の処理記録、モデレーション人員の充足状況、年齢確認・チャット機能の設計に関する内部コミュニケーションが開示対象となっている。MetaのソーシャルメディアMDLでは内部文書が「知りながら放置した」という立証に決定的な役割を果たした。同様のダイナミクスが展開されれば、Robloxの法的露出は一段と大きくなる。

▲ 連邦MDL3166に集約された146件のRoblox子ども搾取訴訟。特別調停人の就任で全体和解交渉が本格化している
7州AG + LA郡 + Nebraska — 「欺瞞的安全対策」という新訴因
3州(ネバダ$12.5M・アラバマ$12.2M・ウェストバージニア$11.1M)による計3,580万ドルの政府間和解が成立した後も、政府機関による訴訟は続いている。2026年2月にはロサンゼルス郡がRobloxを提訴した。「子どもを危険にさらす不公正で欺瞞的な商行為」を訴因とし、チャット機能やアバターカスタマイズが性的捕食者にどのように利用されたか、それがRobloxにとって「予見可能」だったかを問う内容だ。3月にはネブラスカ州AG(マイク・ヒルガーズ氏)が、「子ども搾取を可能にした」ことと「安全を優先すると偽った欺瞞的安全対策」の2つの訴因でRobloxを提訴した。
テキサス州AG(ケン・パクストン氏)は「Robloxは利益のために『ピクセルの小児性愛者』を放置した」と主張し、マーケティングと内部データの乖離を鋭く突く。さらにフロリダ、テネシー、ルイジアナ、ケンタッキー、アイオワ、サウスカロライナの各州でも調査・訴訟が進んでいる。注目すべきは、この州AG訴訟群が赤州(テキサス・テネシー)・青州(ネブラスカ)・中間州を横断していることだ。子どもの安全は政治的対立軸を超えた合意形成が可能なテーマであり、連邦立法への発展も視野に入っている。3州和解文書にはRobloxによる「安全上の失敗の承認」が含まれており、他の訴訟での証拠としても機能するとされている。

▲ テキサス・フロリダ等7州とLA郡・Nebraskaが「欺瞞的安全対策」を訴因にRobloxを提訴。赤州・青州を横断する訴訟群
依存症設計訴訟 JCCP 5363 — Robux・カジノ・AIフィードバックループの訴因
MDL 3166が「性的搾取」に焦点を当てるのに対し、カリフォルニア州裁判所では「依存症設計」を訴因とする別の訴訟群がJCCP 5363として100件以上まとめられている。訴因は3つの柱で構成される。第1は「非移転性の仮想通貨(Robux)」という設計だ。現金に戻せないRobuxは「使い切らないともったいない」という心理を生み出し、継続プレイを促す。第2はゲーム内非公式カジノの存在で、「Bloxflip」「RBXFlip」といったプラットフォームでは子どもが数十万円相当のRobuxをギャンブルで失ったと複数の家族が証言している。第3は行動科学者の採用とAIによるフィードバックループ・報酬設計という「意図的な依存形成」の構造だ。
2026年3月に注目を集めた「Turner v. Epic Games & Roblox」は、EpicとRobloxを共同被告として「子どもの脳を傷つけた」という主張で依存症設計の法的責任を問う先行事例として法律専門家の注目を集めている。12歳でRobloxを始め依存状態にある少年の事例では、「ゲームが楽しくなくても辞められない」という状態が詳細に記録されている。類似のビデオゲーム依存症訴訟は、2024年の米連邦最高裁判決(Gonzalez v. Google)がプラットフォームのアルゴリズム設計責任を問う方向性を示したことで、法的根拠を得つつある。

▲ カリフォルニア州JCCP 5363では依存症設計を訴因とする訴訟が100件超。Robux・カジノ・AIフィードバックループが争点
EU・DSAに広がる規制圧力 — オランダACMが問う「ダークパターン」
法的圧力は米国にとどまらない。2026年1月30日、オランダ消費者市場庁(ACM)がデジタルサービス法(DSA)に基づくRoblox調査を開始した。調査対象は3点だ。①未成年への「高レベルの安全・セキュリティ・プライバシー確保」義務(DSA第28条)の遵守状況、②ダークパターンによる課金誘導(Robux販売時の表示設計を含む)、③グルーミング・不正コンテンツへの対応の適切性。調査完了は2027年初頭の見込みで、違反が認定された場合は制裁金か行動変容命令が下る。
先例として参照されるのが2024年のEpic Games制裁だ。ACMはFortniteの課金設計を「子どもを搾取するダークパターン」と認定し、110万ユーロ(約1.8億円)の罰金を科した。DSAがEU全域の「超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)」に適用されることを踏まえると、オランダの調査は単独制裁にとどまらず、EU加盟27ヶ国すべてに波及しうる。英国・オーストラリア・韓国でも類似の規制動向があり、「米国の訴訟 → EU規制調査 → 各国立法」という連鎖は2026年以降も続く見通しだ。

▲ 2026年1月、オランダACMがDSAに基づくRoblox調査を開始。EU全域の規制連鎖につながる可能性がある
日本への示唆 — 法的圧力の読み方と、ブランドが今すぐ確認すべきこと
日本では現時点でRobloxを直接規制する法的アクションはないが、状況は変わりつつある。政府が2026年春に検討中の未成年SNS規制法案は、「子ども向けと称して依存を促す設計」を問題視する議論と接続する可能性がある。また消費者庁が2024年に改訂したフリーミアムゲームの課金設計ガイドラインでは、Robuxのような非移転性仮想通貨の設計が法的グレーゾーンに入りうると専門家が指摘している。
日本ブランドがRobloxへのマーケティング参入を検討するうえで、3点の確認が欠かせない。第1に、Robloxの広告統合ポリシー(5月4日以降の登録義務化)は「子どもに商業的コンテンツを提供するブランドの責任義務」を明示している。MDLのディスカバリーで内部文書が公開された場合、ブランドが安全上問題のあるUXに「お墨付き」を与えていたという解釈リスクは排除できない。第2に、DevEx 42%引き上げや成人向けゲーム振興は、Robloxが「子ども向け」から「全年齢プラットフォーム」へと転換するサインだが、それは同時に「誰に対するプラットフォームか」という安全設計の問い直しでもある。第3に、3州和解・MDL特別調停人就任・EU調査という3つの節目が重なった今は、プラットフォーム選定時に法的リスク開示を求めるデューデリジェンスを組み込む最適なタイミングだ。訴訟の進展は2026〜2027年にかけて、プラットフォームのブランドセーフティ基準を大きく書き換える可能性がある。


