ブルーロック40億回、スクイドゲーム26億回——RobloxのIPライセンス全開放が変えたコンテンツ創造の現実
- 5月16日
- 読了時間: 6分

▲ Robloxが2025年7月に発表したIPライセンスプラットフォーム。Lionsgate・Netflix・Sega・Kodanshaの4社が創設パートナーとして参加した
2025年7月、Robloxはひとつの制度を静かに立ち上げた。「ライセンスカタログ」——権利者とクリエイターをつなぐ公式IPライセンスプラットフォームだ。その9か月後、2026年初頭には全てのIPホルダーへの開放が完了した。この制度が変えたのは、単なる「商標侵害リスクの解消」にとどまらない。スクイドゲームにインスパイアされた「Ink Game」が26億回以上プレイされ、講談社の「ブルーロック」を使った「Blue Lock: Rivals」が40億回を超えた——この数字が示すのは、「法的に曖昧なゾーン」で繁栄していたファンの創造力が、正式なビジネスの回路に乗ったときに何が起きるかという現実だ。権利者・クリエイター・プレイヤーが三方よしになる新しい構造を、3つの事例から読み解く。
なぜ「公式ライセンス」が今必要になったのか——ファンゲームの限界
Robloxにはもともと、人気IPを「無断使用」したファンゲームが溢れていた。アニメや映画のキャラクターを使った非公式ゲームが数億回プレイされながら、削除リスクを抱えたまま灰色地帯で運営され続ける。権利者にとっては看過するか、削除要請を繰り返すかの二択だった。クリエイター側も「いつ削除されるかわからない」緊張を抱えながら作り続けるほかなかった。
この状況を変えたのが、2025年7月にRoblox公式が発表したライセンスプラットフォームだ。従来、IP使用許諾の交渉は数か月を要し、大手スタジオにしか実質的に開かれていなかった。新しい制度では、権利者が利用条件(収益シェアは通常10〜25%)を設定し、クリエイターが申請から数日〜数時間で許諾を得られる仕組みを整えた。2024年にRobloxクリエイター全体が稼いだ報酬は9億2,300万ドル(前年比25%増)——この規模になったからこそ、権利者が「正式に参入する価値がある」と判断できるようになった。

▲ Roblox IPライセンスプラットフォームの発表を報じたVariety誌。Lionsgate・Netflix・Sega・Kodanshaとの提携が注目を集めた
事例①「スクイドゲーム」——Netflixとクリエイターが共に得た26億プレイ
Netflixの「スクイドゲーム」は、ライセンスプラットフォームの最初の成功例だ。正式ライセンスを受けたGames I Thinkの「Ink Game」は、2025年11月の時点ですでに26億回以上プレイされていた。同じくMr Ducky Studioの「The Squid Game」は160万件以上のお気に入り登録を誇る。これらのゲームはNetflixに収益シェアをもたらしながら、Netflixのファンを新たな体験に誘導するマーケティング効果も持つ。
さらにNetflixは2025年6月、シーズン3の配信(6月27日)に合わせて公式Roblox体験「Squid Game: The Final Games」を自ら制作・公開した。Red Light Green LightやHide and Seekなどシーズンごとのゲームを再現し、シリーズ無料の限定アバターアイテムを配布。151.5百万DAUを持つRobloxが、エンタメコングロマリットの「コンテンツ宣伝装置」として機能した最初の事例と言える。「権利者がただ許諾するだけでなく、自らコンテンツを作る」——この動きはRobloxの可能性を大きく広げた。

▲ Netflix「Squid Game」のIPをRoblox上で正式ライセンス活用した「Ink Game」は26億回超のプレイを記録。権利者・クリエイター双方に収益をもたらすモデルの成功例となった
事例②「ブルーロック」——累計5,000万部の日本マンガが「プレイする体験」に変わった日
講談社は、このプラットフォームが始まる前から先を行っていた。2024年に「Attack on Titan(進撃の巨人)」のRoblox制作コンテストに150万ドル(約2.3億円)を投じ、ファンクリエイターの実力を見極めていた。その実績をもとに、2025年7月の創設パートナーとして参加し、「ブルーロック」と「転生したらスライムだった件(TenSura)」をライセンス提供した。Kodansha社長・野間代表は「ファンとのつながりを深め、新たなストーリーテリングの場として」と語った。
成果は数字で示された。Pocket Lobsterが正式ライセンスを得て制作した「Blue Lock: Rivals」は、40億回を超えるプレイ数を記録した。原作「ブルーロック」は2025年9月時点で世界累計5,000万部を突破——20位以内に入る現役マンガの中でも屈指の規模だ。「読む・見る」という体験から「プレイする」体験への転換は、単なるメディアミックスではなく、IPが持つ生命力の拡張だ。Robloxのプレイヤー層(35%が13歳未満、かつ日本でのDAUは前年比60%超成長)と、ブルーロックの中高生ファン層の重なりが、このヒットを支えた必然的な背景でもある。

▲ 講談社が提供した「ブルーロック」IP。正式ライセンスを受けた「Blue Lock: Rivals」は40億回を超えるプレイ数を記録し、日本IPのRoblox展開の先例となった
事例③「龍が如く」——ゲームIPが「ゲームの素材」になる逆説
セガが参加させた「Like A Dragon(龍が如く)」シリーズは、このプラットフォームが持つ可能性の別の側面を示す。2005年から続く大人向けアクションRPGシリーズで、カラオケ・麻雀・パチンコといったミニゲームが「現実の遊び場」を凝縮したような密度を持つ。その龍が如くのIPが、ユーザー平均年齢が若いRoblox上でクリエイターに提供された——「ゲームがゲームの素材になる」という逆説的な構造だ。
この選択は、Robloxが2026年に向けて推し進める「18歳以上向け高品質コンテンツの強化」という戦略とも整合する。DevExレートの42%引き上げ、Roblox Reality(フォトリアリスティックゲーム支援)、Roblox Plusの月額4.99ドルサブスク——これらの施策はいずれも「Roblox=子どものゲーム」というイメージを脱却しようとする動きだ。龍が如くのような「大人のIP」がプラットフォームに持ち込まれることで、対象層の幅が広がり、広告主やブランドにとっての魅力も増す。セガにとっては新たな収益源であり、クリエイターにとっては成熟したIPの世界観を素材に使える機会でもある。
1,500件の申請が示す「スーパーファン×IP」経済の輪郭——次に動くのは誰か
2025年11月の全IP開放時点で、創設4パートナーへの申請数はすでに1,500件を超えていた。Roblox公式の発表には「Mattelのフランチャイズ:Polly PocketとStreet Sharks」「Skibidi Toiletも近日追加予定」とある。2026年に全IPホルダーへの自己申請が開放されたことで、この数字はさらに拡大している。権利者が設定する条件(収益シェア10〜25%、コンテンツ成熟度の指定、IP使用範囲の制限)はプラットフォーム上で標準化され、自動収益分配まで組み込まれている。かつて「数か月の交渉、一部の大手スタジオのみ」だったプロセスが、「数日〜数時間、個人クリエイターも対象」に変わった。
この変化が問いかけるのは、日本のIP産業に対してだ。講談社はすでに動いた。次に集英社、小学館、スクウェア・エニックス、カプコン、バンダイナムコなどが同じ選択を迫られるのは時間の問題かもしれない。Robloxの日本DAUはQ4 2025で前年同期比60%超成長——読者のすぐそこにいるファンたちが、今まさにRoblox上にいる。「正式にライセンスを出さない」という選択が、事実上「ファンが作ったグレーゾーンのゲームを黙認し続ける」ことを意味するとしたら、どちらの選択肢がIPの長期的な価値を守るかは、明白ではないだろうか。

▲ 2025年11月の全IP開放発表時のRoblox公式ページ。1,500件以上のライセンス申請が示す、クリエイター側の強い需要


