1,286万人が集まったコンサート会場は「ゲーム」だった──UMG・ソニーミュージックがRobloxに賭ける理由
- 4月19日
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2026年1月17日、1,286万人がゲームの中に集まった。場所はRobloxの「Steal a Brainrot」というゲーム内。Bruno Marsがアバター姿で登場し、新曲と往年のヒットを披露した。この数字はトラビス・スコットが2020年にFortniteで打ち立てた記録(1,230万人)を超え、バーチャルコンサート史上最多同時接続としてギネス世界記録に認定された。
コンサートのソーシャルメディアへの波及も想定外の規模に達した。38カ国・20言語にわたる動画コンテンツの再生回数は5,300万回を超えた。Music Business Worldwideが報じたこの数字は、「ゲームでのライブ」が音楽業界のプロモーション手段として本格的に機能し始めていることを示している。そしてこの動きは、Bruno Marsひとりの話ではない。ユニバーサル ミュージック グループとソニーミュージックはそれぞれRobloxと戦略的パートナーシップを締結し、今この瞬間も世界の主要アーティストがRobloxに続々と参入している。
Bruno Marsがゲームで1,286万人を集めた日
「Steal a Brainrot」は、2025年5月に公開されたRoblox内のゲームだ。プレイヤーがキャラクターや特性を集めながら競い合うシンプルな内容で、人気に火がつくと瞬く間に月間アクティブユーザーが急増。2025年7月には2,162万人の同時接続を記録し、Roblox史上最多のプレイヤー数をたたき出した。そのゲームが、Bruno Marsの「ライブ会場」に選ばれた。
コンサートはゲームのメイン画面に割り込む形で行われた。アバター姿のBruno Marsが登場し、新曲「I Just Might」と「Locked Out of Heaven」を披露。ファンはゲーム内で限定コレクタブル「Brunito Marsito」を獲得でき、イベント終了後もそのアイテムを保持できた。同時接続1,286万2,161人という数字は、現実の会場収容人数では実現し得ないスケールだ。フィリピン・ブラジル・インドネシアからの参加者が上位を占め、10代を中心としたRobloxのグローバルユーザー層をそのまま反映していた。

▲ Bruno Marsが「Steal a Brainrot」に登場した2026年1月17日のコンサート。1,286万人が同時接続し、ゲーム内バーチャルコンサートとしてギネス世界記録を達成した
Creepy Nuts:Coachellaと同じ月、Robloxで世界へ
2026年4月、日本のヒップホップデュオCreepy NutsはCoachellaに初出演した。だが彼らのグローバル展開はそれだけではなかった。3月25日から4月19日にかけて、ソニーミュージックが運営するRoblox内の常設音楽空間「AVNU: Where Music Meets」でテイクオーバーイベントを開催した。
Creepy Nutsは「Bling-Bang-Bang-Born」が全世界で9億回以上ストリーミングされ、Dua Lipaとのコラボも実現した実績を持つ。Mogura VRによると、AVNUイベントではCreepy Nuts楽曲に基づいたリズムゲーム、トリビアチャレンジ、専用ダンスエモート、限定UGCアイテム3種(無料配布)が提供された。参加条件は13歳以上・無料という敷居の低さも、Robloxの若年層リーチを最大化する設計だ。
注目すべきは、このタイミングの設計だ。Coachella出演と同月にRobloxでイベントを展開することで、Coachellaのニュースに接した層をそのままゲームへ誘導する動線が生まれた。音楽ニュースを追うティーン・20代とRobloxのユーザー層が重なっており、新規ファン獲得のタッチポイントとして機能している。

▲ Sony Immersive Music Studiosの「AVNU: Where Music Meets」でのCreepy Nutsテイクオーバー。リズムゲーム・トリビア・限定UGCアイテム3種が無料提供された
KATSEYE × Dress to Impress:K-popとアバターの化学反応
2026年4月18日、HYBEが擁するK-popガールグループKATSEYEがRobloxの人気ゲーム「Dress to Impress(DTI)」とコラボレーションを開始した。Dress to Impressは衣装をコーディネートして競うゲームで、57億回以上の訪問数を誇り、TikTokでの拡散を起点にティーン女性層を中心に急成長したタイトルだ。
コラボ発表後、160万人以上のプレイヤーがイベント通知をオンに設定した。GosuGamersによると、KATSEYEの6メンバー全員をモチーフにした12種以上の衣装アイテム、署名ヘアスタイル、メイクオプションが実装された。「アバターに自分の推しグループのファッションを着させる」という体験は、K-popのビジュアル重視の文化とRobloxのアバターカスタマイズ文化が重なる部分を突いている。
BTSやTXTをはじめとする大型アーティストを擁するHYBEがRobloxでの展開を選んだ背景には、既存ファンのエンゲージメント深化と、Robloxの若年ユーザー層へのリーチという二重の目的がある。K-popはファンダム文化が強く、「推し活」のための体験に出費を惜しまない層が多い。Roblox内でのアバターアイテムはその「推し活消費」の延長線上に位置する。

▲ KATSEYEとDress to Impressのコラボビジュアル。発表直後に160万人以上がイベント通知をオン。6メンバー全員をモチーフにした衣装・ヘアスタイルが実装された
なぜRobloxが選ばれるのか:3事例に共通する「深さ」
Robloxの月間アクティブユーザーは1.5億人。ユーザーが1日あたりRobloxで過ごす時間は平均2.5時間にのぼる。Billboardが報じたユニバーサルミュージックグループとRobloxの戦略的提携では、「アーティストとファンが音楽的なつながりを深め、商業的な機会を拡大する」ことが目的として明記されている。この提携にはShopifyを活用したデジタル・フィジカル両面のマーチャンダイズ販売も含まれており、単なるプロモーションを超えた収益化モデルが構築されつつある。
3つの事例に共通するのは「参加できる」体験設計だ。従来のライブストリーミングは観客が見るだけだが、Robloxでは限定アイテムの収集、ゲームへの参加、ダンスエモートでの追体験が可能になる。Lil Nas XのRobloxコンサートは3,300万ビューを記録し、ゲーム内マーチャンダイズ収益は8桁ドル(日本円換算で10億円超)に達したと報告されている。コンサートへの「参加」をゲームプレイと組み合わせることで、単純な視聴では生まれないエンゲージメントが生まれている。
また、Robloxのユーザー構成は音楽業界が最も注目するZ世代の中核を形成している。米国の16歳未満の人口のうち半数がRobloxを利用しているというデータがある。そしてこの層は、TikTokとRobloxの両方を日常的に使う世代と重なる。KATSEYE・DTIのコラボがTikTokで拡散されたように、RobloxのバイラルコンテンツとTikTokの動画文化は連動して機能する。
日本の音楽・エンタメ業界への示唆:Robloxを「ライブ会場」として捉える
Creepy Nutsの事例は、日本のアーティストにとって先行事例としての価値が大きい。Mogura VRによれば、同イベントはソニーミュージックのグローバルな「AVNU」という常設ワールドを活用したテイクオーバー形式だった。つまり、自前でゲームを開発するコストなしに、既存のインフラを使って世界中のユーザーにリーチできる仕組みが既に整っている。
日本のアーティストがRobloxを活用する際のポイントは3点ある。第一に「既存の人気ゲームとのコラボ」という選択肢があること。DTIのようなファッション系、ゲーム系タイトルにブランド要素を持ち込むことで、そのゲームの既存ファン層ごとリーチできる。第二に「体験の設計」。単なる広告ではなくリズムゲームやトリビアなど、ファンが能動的に参加できる要素が定着率を高める。第三に「グローバル展開のコストパフォーマンス」。Coachella出演というリアルイベントと同じ月にRobloxでイベントを展開したCreepy Nutsの例のように、リアルとバーチャルを組み合わせたプロモーション設計が可能だ。
日本からRobloxへ参入するためのパートナーはすでに複数存在する。電通×GeekOut×講談社のROBMIX、ビーライズ×ゲームガムの提携、そしてSmileMeによる「Sakura Mall」(Roblox上に作られた日本初のバーチャルモール)など、国内のプロデュース体制は整いつつある。音楽業界にとって「Robloxでライブができる場所がある」「ゲームを作らずに展開できるインフラがある」という認識が広がれば、Creepy Nutsの成功事例は日本アーティストにとっての最短ルートを示すものになる。


