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70万人の高校生がゲームをデザインした国 サウジアラビアのPlay to Learn競技とRoblox教育の最前線

  • 5月22日
  • 読了時間: 6分

155,000本のゲームが、70万人の学生から届いた。サウジアラビアで2026年に開催された「Play to Learn」コンペティションの数字は、単なる参加者数ではなく、Robloxが教育の文脈でどう使われはじめているかを示す数値として読むべきだ。ゲームを「遊ぶ」だけでなく、「作ることで学ぶ」という発想が、国家教育政策と結びついた最初の大規模事例が、ここに生まれた。



サウジアラビアで起きたこと:70万人参加のゲームデザインコンペ


2026年5月、Robloxはサウジアラビアのゲーム投資ファンド系企業であるSavvy Games Groupと覚書(MoU)を締結した。この合意の中核をなすのが、サウジアラビア教育省が後援する「Play to Learn」コンペティションだ。全土の高校生チームが「教育と遊びを融合させたオリジナルゲームのコンセプト」を競い合うこの大会は、ゲーム開発を学校教育の一部として位置づけることで、国の教育近代化と産業育成を同時に目指す取り組みだった。

結果は想定を大きく上回った。応募数は155,000本超、参加学生は700,000人超。一つの国の高校生が70万人規模でゲームデザインを体験したという事実は、プログラミング教育の文脈だけでは説明しきれない。この取り組みはサウジアラビアの「Vision 2030」に直結している。デジタル産業の振興と若年層のスキル底上げを柱とする国家戦略の一環として、ゲーム開発が教育政策と交差した瞬間だった。

Savvy Games GroupはRobloxのサウジ国内における開発者向けリソース提供とコミュニティ支援を担い、教育省とも連携してオンライン安全・保護者向けガイドラインの共同開発も進める予定だ。単発の競技として終わるのではなく、国内のゲーム開発インフラとして根付かせる意図が見える。

▲ 優勝作「Glitch: Parallel Reactions」。化学反応で怪物を倒しながら探索するRPG。RobloxがプロチームでフルビルドしLearning Hubで世界公開予定



優勝作「Glitch: Parallel Reactions」と10本のゲームが示すもの


Robloxはコンペの上位10概念を実際のプレイアブルなゲームプロトタイプとして制作した。テーマは化学・生物・電気・光学・数学・地理・歴史まで多岐にわたる。最終審査ではRoblox、Steer Studios、Warp Zone Gamingの審査員が評価し、優勝したのは「Glitch: Parallel Reactions」。化学反応を使って怪物を倒しながら異世界を探索するRPGだ。

このゲームが優れているのは「化学を知らないとゲームが進まない」構造にある。酸とアルカリの性質、中和反応の条件をゲーム内の謎解きに組み込み、教科書を読む前にその概念を体験させる。ファイナリスト作品も同様の設計思想を持つ。「Guardians of the Legacy」は物理と歴史の複合、「Biology Horizons」は生体構造の探索、「Energy Archipelago」は電気と磁気を島の開発ゲームに落とし込んだ。学習科目を単一に絞らず、横断的なデザインを持つ作品ほど評価が高い傾向が見て取れる。

上位10作品はすべてRoblox Learning Hubの「Student Created」カテゴリに収録される。優勝作「Glitch: Parallel Reactions」はRobloxのプロチームがフルビルドし、世界中の学習者が遊べる教材として改めて公開される予定だ。コンペで生まれたコンテンツが、世界規模で使われる教材になるという循環が始まった。

▲ ファイナリスト作品「Guardians of the Legacy」。物理(光学)と歴史を組み合わせた設計で、学習科目を横断するゲームデザインが評価された



6,400万訪問のLearning Hub:教育コンテンツのプラットフォームへ


Play to Learn競技の作品が収録されるのが、2025年7月にローンチされた「Roblox Learning Hub」だ。BBC Bitesize、セサミストリート・ワークショップ、Google、スミソニアン博物館関連組織など、実績ある教育コンテンツプロバイダーの体験を一か所に集約したハブで、2026年5月時点で訪問数が6,400万回を超えた。ローンチから約10ヶ月でこの数字に達したことは、プラットフォームとしての吸引力を示している。

Roblox全体のDAU(日次アクティブユーザー数)がQ3 2025時点で1億5,150万人を超えていることを考えると、既存のユーザーが自然に教育コンテンツへ流入するパスが出来ていると見ることができる。BBCの「Planet Planners」はイギリスのKS3カリキュラム(中学相当)とアメリカの6〜8年生スタンダードに対応しており、単にゲームとして楽しいだけでなく、学校の授業進度と連動する設計になっている。「カリキュラム準拠」の設計こそが、教師や保護者が安心して薦められる根拠になる。

Learning HubはPC・モバイルのRobloxアプリから直接アクセスでき、コンピューターサイエンス・数学・生命科学・語彙・脳トレなど幅広い分野のコンテンツが揃っている。「Words of Power」では語彙力を、「Math Tower Race」では算数を、「Ecos: La Brea」では地質学と古生物学を遊びながら学べる。教育とエンタメの境界を意図的に曖昧にする設計が、ここでも一貫している。

▲ 2025年7月に開設されたRoblox Learning Hub。BBC Bitesize、セサミストリートなど主要教育コンテンツが集約され、2026年5月時点で6,400万回訪問を超えた



「作って学ぶ」が「読んで学ぶ」を超える場面


Play to Learn競技が注目を集めた理由のひとつは、ゲームを「消費する側」から「設計する側」に学生を置いた点だ。自分でゲームをデザインする行為には、教科知識だけでなく、問題定義・プロトタイピング・他者への説明という高次スキルが要求される。「なぜこのメカニクスがこの学習目標に有効か」を自分で考え、プレイテストで検証し、改善する。これはプロジェクト型学習(PBL)の構造そのものだ。

Roblox Educationは「コーディング・ゲームデザイン・デジタルシチズンシップ・起業家精神」を無料で教えることを目的としており、同社は2030年までに世界1億人の学生へのリーチを目標として掲げている。Play to Learn競技はその目標に向けた最初の国家規模の実証例と位置づけることができる。700,000人という数字は、単一の競技としては異例の規模だ。

こうした流れは世界各地で広がりつつある。2026年1月にKDDIとエリクソン・ジャパンが仙台市教育委員会の協力を得て実施した「遠隔ゲームクリエイター教室」では、東京と仙台の小中学生がRoblox Studioを使ってゲームを制作した。CA Tech Kidsの「Tech Kids CAMP Spring 2026」もMinecraftと並んでRoblox Studioコースを設け、Luaプログラミング言語と3D空間設計を同時に学ぶカリキュラムを提供している。プレイヤーとして使っていたプラットフォームが、今度はものづくりの道具になる。

▲ 生物学をテーマにした「Biology Horizons」。高校生が設計した体験として、専門的な科学知識を遊びの文脈で表現している



日本の教育現場にとって何を意味するか


日本でのRoblox活用はいま、二つの方向で進んでいる。ひとつは民間プログラミング教室による普及で、全国に多数のRoblox対応教室が展開されている。もうひとつは学校・自治体連携による実証実験で、KDDIとエリクソンの事例がその先例だ。ただし日本の取り組みは全体として放課後型・選択型が中心で、サウジアラビアのような「省主導の全国規模競技」とはまだ距離がある。

N高校(角川ドワンゴ学園)では高校1年生を対象にRoblox Studioを使った4日間のゲーム制作ワークショップを実施している。これは公教育の文脈でゲーム開発を取り入れた数少ない事例のひとつだが、カリキュラムへの組み込みという意味では特定校の取り組みにとどまる。文部科学省が推進するGIGAスクール構想の延長として、ゲームエンジンを使ったプロジェクト型学習が公立学校に組み込まれる事例はまだ限定的だ。

Play to Learnのモデルが示すのは、「Robloxの教育価値は、プレイさせることより作らせることにある」という転換点だ。700,000人の高校生がゲームを設計し、そのうち10本が世界中の学習者に届く教材になるという流れは、学習コンテンツの制作と消費のサイクルを民主化する試みでもある。日本の教育委員会や学校がこのモデルを参照し、地域の高校生が教科知識を「ゲームとして表現する」コンペを設計する余地は、Roblox公式の教育リソースを活用すれば技術的にはすでに整っている。課題はそれを政策として位置づけられるかどうかだ。

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