W杯が始まる10日前にRobloxで起きていたこと——FIFAとadidasが証明した「試合前にファンを作る」新法則
- 6月1日
- 読了時間: 6分

▲ FIFA Super SoccerはRoblox最大の公式ブランドゲーム。Gen ZとGen Alphaのサッカーファン獲得を担う戦略的プラットフォームだ
2026年6月11日、FIFAワールドカップが北米で開幕する。48カ国・104試合、史上最大規模のサッカー大会はスタジアムの外でも熾烈な戦いが繰り広げられていた。ブランドたちが争った舞台はRoblox——Gen ZとGen Alphaが1日2時間以上を過ごすその空間で、FIFAとadidasは3年かけて何かを実証した。それは「試合前にファンを作れる」という、スポーツマーケティングの新しい法則だ。
「サッカーが好きな若者は少ない」という現実から始まった
FIFAがRobloxに目を向けた背景には、ひとつの数字が示す課題があった。調査会社Morning Consultの調査によれば、Gen Zのうち「熱心なサッカーファン」は9%、Gen Alphaでも14%にとどまる。FIFAワールドカップの累計視聴者数は50億人を超えるにもかかわらず、次世代の心を掴めていないという逆説だ。
課題はもうひとつあった。2022年、FIFAはEA Sportsとの長期ゲームライセンス契約を終了した。EA FCとして継続するEA側に対し、FIFA会長ジャンニ・インファンティーノは「ゲームにはFIFAという名前が不可欠だ」と語り独自のゲームエコシステム構築を宣言。そこで選んだのが、Gen ZとGen Alphaが1日平均2時間以上を過ごす——YouTubeやTikTokを超える滞在時間を記録する——Robloxだった。
FIFAが組んだパートナーはGamefam——Roblox上のゲームを公式IPへ転換することを専門とするスタジオだ。独立クリエイターのMats Watteが開発したサッカーゲーム「Super League Soccer」の権利を取得し、公式FIFA資産を組み込んで「FIFA Super Soccer」として生まれ変わらせた。既存のアクティブなコミュニティに公式IPを上乗せする手法は、Roblox上のブランド戦略の定番になりつつある。

▲ Gamefam社のFIFA Club World Cup 2025ケーススタディ。3日間で5.55Mセッション・84%の視聴意向を記録した
FIFA Club World Cup 2025——3日間で5.5Mセッション、84%がトーナメントを追う
2025年、FIFAは一つの実験を行った。史上初めて32チームに拡大されたFIFA Club World Cup 2025の開幕に合わせ、Robloxでトロフィー公開イベントを実施したのだ。Super League Soccer(当時Roblox上のサッカーゲーム1位)のゲーム内にCWCトロフィーを「体験できる」特設エリアを設け、プレイヤーがそのトロフィーとともに写真撮影・クエスト達成・限定アイテム獲得を楽しめる体験を提供した。
Gamefamの公式ケーススタディによれば、わずか3日間で5.5Mのゲームプレイセッションと70Mの分(=約116万7,000時間)のブランドエンゲージメントを達成した。しかし最も重要な数字は別にある——イベント参加者の84%が「FIFA Club World Cupをフォローする予定がある」と回答した。
ゲームを遊んだ若者のほぼ全員が、試合を見ようとした。これは単なるインプレッション数の話ではない。Gen Zにとって「知っているスポーツ」と「自分事のスポーツ」の間には巨大な壁がある。ゲームでトロフィーに触れ、クラブカラーのユニフォームを身にまとい、選手名を入力した若者たちは、FIFA Club World Cupをすでに「自分が応援するもの」として認識していた。ゲーム体験が観戦意欲の入口になるという仮説が、数字として証明された。

▲ FIFA × Robloxの連携。スポーツブランドがゲームプラットフォームをマーケティング戦略の中心に据える動きが加速している
adidas Football Festival——4週間で51.5M訪問・8M時間のRoblox記録
FIFA Super Soccer(2025年末に現名称にリブランド後)を舞台に、adidasが4週間のキャンペーンを展開した。「adidas Football Festival」と名付けられたイベントは、フラメンゴ・ボカJr・クラブアメリカ・アストンビラ・ユニオンベルリン・アル・ナスルなど14のadidasパートナークラブをゲーム内に実装。プレイヤーはクラブ専用のユニフォームを着てゲームを楽しみ、クエスト達成で限定アイテムを獲得できる仕組みだった。
最終実績は業界の常識を塗り替えた。Hashtag Sports Awards 2026のショートリスト掲載資料によれば、51.5M訪問・8Mh(8,000万時間)のエンゲージメント・37,500同時接続ピーク——Roblox史上最大のスポーツイベントの記録だ。
この成功の核心はブランドの配置方法にある。adidasはゲームの「外側」——ロゴが浮かぶバナーや読み込み画面の広告——ではなく、コアゲームメカニクスそのものに統合した。プレイヤーがゴールを決めるたびに、好きなクラブのユニフォームを着た自分のアバターが躍動する。クエスト達成でadidasのコレクターアイテムが手に入る。ブランド体験とゲームの楽しさが切り離せない構造になった結果、4週間で5,150万回のアクセスを生んだ。

▲ FIFA Super SoccerとRobloxの戦略的連携。W杯に向けGen Z/Alphaへのサッカーファン育成を本格化
カナダ代表のRoblox参入——開催国が仕掛けた「ホスト戦略」と今のFIFA Super Soccer
W杯開催国のひとつ、カナダは独自の動きを見せた。Canada Soccerは2026年5月22〜29日の1週間、GamfamとともにFIFA Super Soccerにカナダ代表を実装するイベントを開催した。「Our Game Now」キャンペーンの一環で、W杯出場ロスター発表(5月29日)と連動して設計された。
このアプローチが示すのは「試合前のファンコミュニティ形成」という考え方だ。プレイヤーはゲーム内でカナダ代表のユニフォームを着て戦い、「自分はカナダを応援している」という感情を持ってロスター発表を迎える。試合を見てからファンになるのではなく、ゲームを通じてファンになってから試合を見に行く——FIFAが目指した順序が機能した事例だ。
2026年6月時点のFIFA Super Soccerの規模を整理すると、10M月間アクティブユーザー・累計11億回以上の訪問・1日150万セッション・平均11分のプレイ時間というデータが残る。公式FIFAゲームを持たなかった2022年から3年で、RobloxにFIFAブランドの根拠地が誕生した。
日本の6月14日——adidas×Ado、そしてRoblox×W杯の接点
日本代表(サムライブルー)はグループFでオランダ・チュニジア・スウェーデンと対戦し、初戦は6月14日のオランダ戦だ。8大会連続W杯出場となる今大会に向け、adidasは異例の発表を行った——サムライブルーの公式キット「Samurai Blue 2026」とアンセムに、匿名アーティスト・Adoを起用したのだ。
Adoはアニメキャラクターとして活動し顔を公開しないことで知られる。このスタイルはRobloxユーザーの文化——アバターでアイデンティティを表現し、匿名でコミュニティに参加する——と本質的に重なる。「フットボール×ファッション×音楽×アニメ」を融合させたキャンペーンとして制作されたアンセムは、ライブ映像とアニメを組み合わせた作品だ。
数字の面では、日本市場のRoblox成長が背景を支えている。Access Partnershipのレポートによれば、日本のRobloxはQ4 2025に前年同期比160%のDAU成長・60%のbookings増を記録。DevEx対象クリエイター数は2年で415%増え、収益の57%が海外プレイヤーから生まれている。
W杯期間中(6月11日〜7月19日)はサッカー関連コンテンツの需要が世界的に急増する。adidasはFIFA Super SoccerのFestivalで「ゲームとブランドを一体化する」手法の有効性を51.5M訪問という数字で証明した。同様の手法を日本市場で展開するとすれば、侍ブルー×Adoの世界観をRoblox体験に転換する——アバターとして着用可能なサムライブルーのユニフォーム、Adoの楽曲が流れる仮想スタジアム——というシナリオは技術的にも市場的にも現実的になっている。
スポーツマーケティングの法則が変わった。試合を見せてファンを作るのではなく、ゲームで「そのスポーツを体験させる」ことがファン育成の入口になる。FIFA Club World Cup 2025の84%、adidas Football Festivalの51.5Mという数字は、その新しい法則が確かに機能することを示している。6月14日に日本代表がオランダと戦うその日、Roblox上の侍ブルーのユニフォームは何枚売れるだろうか。


