「Wicked」80億・Fenty商品・FIFA 365日——3形態の事例が示すRobloxブランド投資の論理
- 5月19日
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▲ 2026年1月にCESで発表されたRobloxの広告プラットフォーム拡張。151Mのデイリーユーザーに直接リーチできる新フォーマットが公開された
Robloxの1日あたりアクティブユーザーは1億5,100万人、1人あたり平均滞在時間は2.8時間——この数字だけを見て「子ども向けゲームの広告枠」と判断しているとしたら、競合他社に大きく水を開けられるかもしれない。2025〜2026年にかけて積み上がってきた事例を整理すると、企業がRobloxを使う「打ち手」は3つの形態に分類できることがわかってきた。映画公開に連動する「テントポール型」、ゲームの中でリアルな商品を売る「コマース型」、そして年365日を1つのスポーツ体験として運営する「定常スポーツ型」だ。それぞれが残した数字は、Robloxへのブランド投資を「若い層向けの広告実験」で終わらせずに済む根拠になってきている。
テントポール型——「Wicked: For Good」が80億インプレッションを達成した構造
Universal Picturesは2025年に2本の大作映画をRoblox上で展開した。夏公開の「Jurassic World: Rebirth」は約20億インプレッション(2B impressions)を記録し、冬公開の「Wicked: For Good」はマルチワールド・マルチフォーマットのキャンペーンで約80億インプレッション(8B impressions)に到達した。Roblox公式によれば、2025年に米国で興行成績トップ10入りした作品のうち7本がRoblox上でキャンペーンを展開している。これはもはや「試験的な参入」ではなく、映画宣伝の標準的なチャネルとして定着した証拠だ。
この背景にあるのが「Rewarded Video(報酬型動画広告)」の普及だ。ゲームを進めるためのアイテムと引き換えに30秒動画を視聴させるこのフォーマットは、400以上のゲーム体験に組み込まれ、1,000社を超えるブランドが利用している。完了率は90%超、ビューアビリティは95%超——これはYouTubeやTikTokの動画広告と比較しても遜色ない水準だ。2026年1月のCESでは、さらに「Homepage Feature」という新フォーマットが発表された。1億5,100万人が毎日訪れるRobloxホームページに掲載され、クリックすると3D没入体験に切り替わる広告ユニットで、e.l.f.・Sam's Club・Universalの「Five Nights at Freddy's 2」が先行テストに参加している。Sam's Clubのパートナーシップ&グロースマーケティング責任者Leslie Shepardは「最も関連性の高いゲームが並ぶ場所に広告を置くことで、従来のデジタル広告よりオーガニックな繋がりが生まれる」と語った。

▲ Rewarded Video(報酬型動画広告)。400以上のゲーム体験に組み込まれ、完了率90%超・ビューアビリティ95%超を記録している
コマース型——Fenty BeautyとTwin Atlasが証明した「ゲームの中で物が売れる」現実
2025年5月、RobloxはShopifyとのCommerce API連携を発表した。13歳以上の米国ユーザーを対象に、ゲームの中からリアルな物品を購入できる仕組みが解禁された初の事例だ。先行テストに参加したクリエイタースタジオ「Twin Atlas」は、「Creatures of Sonaria」「Dragon Adventures」「World // Zero」の3タイトルにインゲームコマースを組み込んだ結果、数週間で6桁(10万ドル超)の売上を記録した。全注文の約90%がゲーム内コマース経由で発生し、そのうち50%がリピーターだった。
ビューティーブランドのFenty Beautyはこの仕組みを活用した最初期のブランドの一つだ。Roblox上の体験内で独占カラーのリップグロスを販売し、購入したユーザーのアバターにも同アイテムが反映される設計にした。この仕組みが機能する背景には「バーチャル試着」が購買意向を高めるという実証データがある。Robloxの2025年データによれば、88%のユーザーが「物理的な購入前にデジタルファッションで事前確認を行う」と回答し、64%が「バーチャルでブランドを試した後リアルでもそのブランドを検討する可能性が高い」と答えた。ゲーム体験はもはや「認知を広げる入口」ではなく、購買意向を形成する「試着室」として機能しているのだ。なお、Approved Merchandiser Program(AMP)という仕組みも同時に開始されており、物理的な購入品にコードを付与してRoblox上でのデジタルアイテムと連動させることができる。玩具メーカーInnov8 Creative Academyはぬいぐるみ「Deddy Bears」の購入者にRoblox上でのデジタルアイテムをセットで提供し、リアルとバーチャルの双方向な購買体験を実現した。

▲ Fenty BeautyのRoblox体験。独占カラーのリップグロスをゲーム内で購入でき、アバターにも同アイテムが反映される「コマース型」の先駆け事例
定常スポーツ型——FIFA・NBA・NFLが年365日運営するゲーム体験という選択肢
FIFAは2026年W杯(6月開幕)を前に、Roblox上で「FIFA Super Soccer」を展開している。Gamefamが開発したこのゲームは、もともとクリエイターMats Watteが制作した「Super League Soccer」(1日平均150万セッション)をFIFAライセンスでリブランドしたものだ。名称変更後に同時接続ユーザー数が2.1万人を記録し、瞬間的にRoblox上位70タイトルに入った。adidas Football Festivalでは4週間にわたりFlamengo・Boca Juniors・Al Nassrなど14クラブのアバター装備が順次解禁された。
このモデルの本質は「定常型」にある。W杯は4年に1度だが、Roblox上のゲームは365日稼働し続けている。試合のない期間も、クラブコンテンツやアバターグッズの更新でユーザーとの接点を維持できる。同様のアプローチはアメリカンスポーツにも広がる。NFL Universe FootballはSuper Bowl LX向けコンテンツを季節的に投入し、NBAはNBA ChampionsとNBA Heroes(Players Association協賛)を同時展開。Roblox公式もスポーツ体験を「365日のデスティネーション」と表現しており、単発キャンペーンとは根本的に異なる経済モデルを実現している。Gen ZがRoblox上のブランド体験に滞在する平均時間は12分——通常のソーシャル広告に比べてはるかに長い。その滞在時間を年間で積み上げることができるのが定常型の強みだ。

▲ FIFA Super Soccer on Roblox。W杯2026開幕前にリブランドし、リリース直後に同時接続ユーザー2.1万人を記録。年間常設型スポーツIPの代表事例
3形態に共通する成功原則と、日本ブランドへの示唆
3つの形態を横断して見えてくる成功原則がある。「受動型」ではなく「参加型」の体験設計だ。e.l.f. Cosmeticsは金融リテラシーゲームや精神健康教育体験を通じてRobloxに深く関与しており、同社のグローバルブランドインサイト責任者Allison McDuffeeは「Robloxユーザーの3人に1人がe.l.f.を信頼・評価している」と語る。McDuffeeの言葉を借りれば「Robloxでの文化的な関連性は、広告を掲示することではなくコミュニティに参加することから生まれる」。キャンペーンを一度打って終わりにするのではなく、フィードバックを聞き、コンテンツを更新し、ユーザーと共に進化し続けることが長期的なブランドロイヤルティに繋がっている。
日本のブランドにとってRobloxの素地は決して小さくない。アニメ関連のコンテンツ検索が日本ユーザーに多く、Blue Lock Rivalsのような日本IPが40億回プレイを超えた実績もある。しかし日本企業のRoblox活用は海外と比べて明らかに遅い。
障壁の多くは技術ではなく社内認識だ。「ゲームの広告枠」という先入観が予算稟議を難しくしている。だが上述の数字——8BI・6桁コマース売上・365日定常運営——を見れば、Robloxは「体験型マーケティングのインフラ」であることがわかる。Commerce APIは現時点で米国13歳以上に限定されているが、Roblox公式は「今後さらなる市場展開」を明言している。コスメ・食品・スポーツ・エンタメといった分野で日本発コンテンツはバーチャル体験との相性が高い。次のステップとして、まず社内の意思決定者にbrands.roblox.comのケーススタディを共有し、3つの形態のどれが自社のブランド目標に合うかを議論することが出発点になるだろう。

▲ Homepage Feature広告フォーマット。クリックすると3D没入体験に切り替わる。e.l.f.・Sam's Club・Universalが先行テストに参加している


