top of page

Robloxは「ゲーム」から「教科書」へ──京王電鉄・KDDI・松竹芸能が同時に動いた、2026年春の日本Roblox教育事例集

  • 4月30日
  • 読了時間: 8分
keio-roblox-cover.jpg

2026年4月、日本でRobloxを「教育」として扱う事業が3つ同時に動き出した。京王電鉄系の『KEIO eSPORTS LAB.』が5月から月謝12,000円のRobloxプログラミングコースを新規開講。KDDIとエリクソン・ジャパンは仙台市教育委員会の後援を受けて、Robloxを教材にした遠隔STEAM教室を1月に実施。そして松竹芸能は所属タレントを「Roblox Parents Council」の日本代表として選出し、学校・PTA向けネットリテラシー教育の支援に乗り出した。


これらは「ゲーム好きの子どもにプログラミングを教える」という従来の文脈を超え、子ども・保護者・自治体それぞれに対して別個の専門事業が立ち上がりつつあることを意味する。Robloxの日本DevEx対象クリエイター数が2022年から2024年にかけて415%増えた追い風の中で、教育市場が「Robloxという1つのプラットフォームをめぐる3層構造」に分化し始めた瞬間を、3事例から読み解く。



1.5億DAUのプラットフォームが「日本の教育インフラ」候補になった理由


Robloxの全世界デイリーアクティブユーザー(DAU)は2026年時点で約1億5,150万人、Q1 2026予想では1億4,565万人と分析機関が発表している。日本市場は2022年から2024年にかけてDAUが120%増加し、アジア太平洋地域全体の108%成長を上回るペースで拡大した(Access Partnershipレポート)。しかし注目すべきは利用人数よりも、子どもが「Robloxで遊ぶ」と「Robloxで作る」の境界をすでに越え始めている点だ。


同レポートによれば、日本のDevEx対象クリエイター数は2022年Q4から2024年Q4までの2年で415%増、収益分配額は78%増。さらにRoblox公式のLearning HubにはBBC・Google・Sesame Workshopが2025年7月から教材を提供開始しており、ゲーム制作環境としてではなく「教科書プラットフォーム」としての地位を固めつつある。


この国際的な「教育インフラ化」の動きが、2026年春の日本でようやく具体的な事業として立ち上がってきた。以下の3事例は、いずれもRobloxという同じ素材を扱いながら、ターゲットも収益モデルも全く異なる。日本のRoblox教育市場が一枚岩ではなく、最初から「子ども向け教室」「自治体向け実証」「保護者向けリテラシー」の3つに分化して立ち上がっていることが見えてくる。


▲ Roblox Studioで子どもがゲームを制作する様子。日本でも遊ぶだけでなく『作る』側に回る子どもが増え、教育市場の対象となり始めた。

▲ Roblox Studioで子どもがゲームを制作する様子。日本でも遊ぶだけでなく『作る』側に回る子どもが増え、教育市場の対象となり始めた。



事例①:京王電鉄『KEIO eSPORTS LAB.』──月謝12,000円・Lua言語まで踏み込む本格コース


京王電鉄株式会社と株式会社TechnoBlood eSportsは、共同運営する『KEIO eSPORTS LAB.』で2026年5月からRobloxプログラミングコースを新規開講すると発表した(TechnoBlood eSports プレスリリース)。対象は小学4年生以上、毎週60分授業、月会費12,000円。教室は笹塚と調布の駅前に置かれ、京王線沿線の家庭が「習い事」として通える前提で設計されている。


注目すべきは、子ども向け教室でありながらRobloxの公式言語であるLuaのコーディングまで踏み込む点だ。一般的な小学生向けプログラミング教室の月謝相場は7,000〜18,000円程度だが、ScratchやマイクラなどのビジュアルプログラミングからLuaへ橋渡しする専門コースは数が少ない。月謝12,000円は中堅価格帯にあたり、「ゲームを作って遊ぶ」段階を超えて「収益化や本格制作の入り口に立つ」レベルを家庭が負担できる価格として狙いを定めたことがわかる。


鉄道会社が直接運営する教室であることも特徴だ。京王パスポートクラブ会員向けには既存のマインクラフト教室があり、今回はその上位コースという位置づけになる。沿線住民の習い事をライフタイムで囲い込む戦略の中に、Robloxが「中学・高校以降も続けられる本格教材」として組み込まれた形である。

▲ 『KEIO eSPORTS LAB.』のレッスン風景。京王線笹塚・調布の駅前で5月開講予定、月謝12,000円・週1回60分のRoblox専門コース。

▲ 『KEIO eSPORTS LAB.』のレッスン風景。京王線笹塚・調布の駅前で5月開講予定、月謝12,000円・週1回60分のRoblox専門コース。



事例②:KDDI×エリクソン×GeekOut──仙台市教育委員会後援、自治体型STEAMの実証


KDDIとエリクソン・ジャパンは2026年1月24日、仙台市教育委員会の後援を受けて、東京(KDDI高輪本社)と仙台(エリクソン・ジャパン仙台オフィス)を遠隔接続した『遠隔ゲームクリエイター教室』を実施した。教材はGeekOut株式会社とKDDIが共同開発したRobloxベースのプログラムで、対象は小学1年生から中学3年生まで30名(GeekOut発表)。参加費は無料で、自治体の教育プログラムの一環という体裁を取った。


京王電鉄の有償教室と決定的に違うのは、この事例が「ビジネスとしての習い事」ではなく「次世代通信インフラ+教育」の実証実験である点だ。エリクソンが5G/6G通信技術の社会実装を念頭に置きながら、Robloxを「遠隔授業に耐える協働創造ツール」として検証している。GeekOutが提供するのは技術カリキュラムだが、KDDIにとっては将来の地方自治体・教育委員会向け回線サービスの素材であり、エリクソンにとっては低遅延コミュニケーションのユースケースである。


ここで重要なのは、自治体(仙台市教育委員会)が「後援」という形でこの取り組みに名を連ねた事実だ。家庭の自費負担で進む民間教室と並んで、公教育・公共サービス側にもRoblox活用の入り口が開いたことになる。今後、地方都市の児童館・放課後等デイサービス・公民館事業などでRobloxを使った無償プログラムが広がる前段として、この1月の実証は重要な布石である。

▲ KDDIとエリクソンが仙台市教育委員会の後援で実施した遠隔ゲームクリエイター教室。Robloxを5G/6G時代の協働教材として位置づける実証だ。

▲ KDDIとエリクソンが仙台市教育委員会の後援で実施した遠隔ゲームクリエイター教室。Robloxを5G/6G時代の協働教材として位置づける実証だ。



事例③:松竹芸能とRoblox Parents Council──「親」が教育市場の主役になる


松竹芸能株式会社は2026年4月、所属タレントのかくだたくじが『Roblox Parents Council』日本代表メンバーに選出されたと発表した。同協議会は2026年1月にRobloxが32カ国規模で立ち上げたグローバル保護者組織で、未成年ユーザーの安全な利用を保護者の声で議論する仕組みだ(Mogura VR News)。日本代表選出を受けて、松竹芸能は学校・PTA向けのネットリテラシー講演をかくだ氏を講師として展開していくと明言した。


前段としては2025年12月、松竹芸能と『こどもでぱーと』が連携して親子向けRobloxワークショップを開催している。子どもがRobloxで何をしているのかを保護者が体験的に理解することで「親子の情報分断」を解消する目的だった(GameBusiness.jp)。このイベントの延長線上に2026年4月の発表があり、エンタメ企業がリテラシー教育市場に本格参入する流れが見える。


松竹芸能の動きが示すのは、Roblox教育市場が「子どもへのコーディング指導」だけでは完結しないという現実である。日本の保護者の多くは、いまだに「Robloxは何をするゲームなのか」を正確に説明できない。子どもアカウント分割(Kids/Select)、年齢確認義務化、グルーミングや詐欺の手口といった話題は、保護者向けの体系的な学びを必要とする。芸能事務所が講師を派遣しPTAで講演するというビジネスモデルは、子ども向け教室とも自治体実証とも異なる第三の市場であり、文化資本としてのリテラシー教育を商品化したものと言える。

▲ Roblox Parents Council日本代表に選出されたかくだたくじ氏。松竹芸能はPTA・学校向けネットリテラシー講演を本格展開していく。

▲ Roblox Parents Council日本代表に選出されたかくだたくじ氏。松竹芸能はPTA・学校向けネットリテラシー講演を本格展開していく。



3事例の構造比較──「子・親・自治体」に分化したRoblox教育市場の見取り図


3つの事例を並べると、日本のRoblox教育がたった3〜4ヶ月の間に明確な3層構造へ分かれていることがわかる。京王電鉄は「子ども本人へのスキル教育」を月謝モデルで売る。KDDIとエリクソンは「自治体・教育委員会への実証提案」を通信インフラ事業の一部として扱う。松竹芸能は「保護者・PTAへのリテラシー教育」を講演ビジネスとして組み立てる。


ターゲットも収益モデルも完全に異なるため、3社は競合しない。むしろこの分化はRoblox教育市場が成熟期に入る前に必要な前提整備でもある。子どもがRobloxをスキルとして学ぶには、その学びを社会的に承認する保護者と、提供環境を支える自治体の両方が必要だ。日本では従来この3者が分断されており、結果として「ゲーム=悪」「Roblox=危険」という認知が更新されにくかった。3事例が同時に動き出したことで、初めて教育・保護・本人スキルの三角形が揃った。


Mogura VR Newsはこの動きを「日本でロブロックスを学校教育に取り込む流れがついに加速した」と分析している(Mogura VR News)。注目すべきは、3層のうちどこか1つが先行するのではなく、3つがほぼ同時期に立ち上がったことで、それぞれが他層の参加者を「自分のサービスの紹介先」として相互送客できる構造が生まれた点だ。京王電鉄の生徒の保護者が松竹芸能の講演を聞き、KDDIの自治体実証で関心を持った教育委員会が地元の民間教室を案内する——そういう循環が成立する条件が、2026年4月時点でようやく整った。


▲ Roblox教育の3層構造。子ども(スキル)、保護者(リテラシー)、自治体(インフラ)の各層が同時に立ち上がることで初めて市場が成立する。

▲ Roblox教育の3層構造。子ども(スキル)、保護者(リテラシー)、自治体(インフラ)の各層が同時に立ち上がることで初めて市場が成立する。



保護者と自治体が今選ぶべき道──DevEx 415%増の追い風を「学習機会」に変換するために


日本のDevEx対象クリエイター数が2年で415%増えた事実は、すでにRoblox上で「ゲーム制作で生活の足しを得る日本人」が一定数生まれていることを意味する。しかしこの追い風を、家庭にいる小学生や中学生の現実の学びにつなぐには、保護者と自治体それぞれに具体的なアクションが要る。


保護者が今すぐ確認すべきは2点ある。1つ目は、子どものRobloxアカウント設定(年齢確認・チャット制限・課金制限)が現状の安全基準を満たしているか。2つ目は、近隣に通える教室があるか、または自治体の児童館・公民館で関連プログラムが始まる予定があるかだ。京王線沿線の家庭であればKEIO eSPORTS LAB.が選択肢となり、地方都市であればKDDI・エリクソン的な無償プログラムの広がりを待つのが現実的である。松竹芸能の講演がPTA経由で配信される場合、保護者は積極的に参加して情報の非対称性を埋めるべきだ。


自治体・教育委員会にとっては、仙台市が後援した形のRoblox実証教室を全国の地方自治体が「自分たちでも導入できる事例」として参照できるようになった意味が大きい。1月の実証はわずか30名の小規模イベントだが、後援自治体が他地域に「うちでもできる」と示す材料としては十分だ。Roblox公式のLearning HubにBBCやGoogleが教材を提供している事実とあわせれば、自治体の予算で「公的な教材」として導入する正当性は揃いつつある。


Robloxの公式Learning Hubは2025年7月にBBC・Google・Sesame Workshopとの提携を発表しており、日本の教育機関が公的な教材として採用する根拠の一つになる(Roblox公式)。日本の保護者と自治体がこの春の3事例を「特殊な動き」として眺めるのか、「自分たちの選択肢」として読み替えるのか。その判断が、2026年後半以降の日本のRoblox教育市場の形を決める。


▲ 32カ国から参加するRoblox Parents Council。日本代表の選出をきっかけに、保護者教育を起点とした事業が動き始めた。

▲ 32カ国から参加するRoblox Parents Council。日本代表の選出をきっかけに、保護者教育を起点とした事業が動き始めた。



bottom of page