ゲームが授業になる日——文化服装学院・N高の先行事例が示す、日本のRoblox教育の現在地
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Robloxで服をデザインし、世界中のプレイヤーに購入してもらう——それが今、東京の専門学校の卒業制作になっている。2025年2月、文化服装学院の学生たちはRoblox Studio上で3Dファッションアイテムを制作し、Roblox Marketplaceを通じてグローバルのユーザーに届けた。同時期、N高等学校の高校生13名は4日間のワークショップでゲームを完成させ、「ゲーム制作を仕事にする」という選択肢を初めてリアルに感じた。
Robloxを学習ツールとして位置づける動きは、もはや実験的な試みではない。2025年7月、Roblox自身がBBCやGoogleと組んで「Learning Hub」をローンチし、教育コンテンツをDAU1億4,400万人に向けて開放した(Roblox公式発表)。日本国内でも複数の学校が独自の教育プログラムを走らせており、Robloxが「遊ぶ場所」から「学ぶ場所」に変わりつつある現状を、国内外の先行事例から追う。
服を縫いながら服をコーディングする——文化服装学院のデジタルファッションプログラム
2024年10月、文化服装学院・電通グループ・Roblox Corporationの三社が連携し、日本初となる「デジタルファッションプログラム」を開講した(Roblox公式)。カリキュラムを支援したのはGeekOut株式会社で、文化服装学院のバーチャルファッションコース内の上位科目として位置づけられた。21名の学生が、Roblox StudioのLayered Clothing技術を使って3Dアイテムを設計・製作し、「Bunka Fashion College Fashion Runway: Class of 2025」と名付けたバーチャル展示空間をMarketplaceに公開した。
学生たちは物理的な衣服の制作と並行して、デジタルコレクションを「My Brand」のテーマでまとめ上げた。展示空間を訪れたプレイヤーはアイテムを試着し、投票し、購入できる——これは単なる技術演習ではなく、実際の市場に作品を出す体験だ。文化服装学院の相原幸子学院長は「将来のファッションブランドは服を縫うことと服をコーディングすることの両方ができる。文化の卒業生はそのポジションに立てる」と述べた。Parsons School of Designが2023年に初めてRobloxを活用したデジタルファッション授業を開講した直後、日本の専門学校がそれに続いた格好だ。
RobloxはこのプログラムをRDC(Roblox Developers Conference)2025で日本・海外のギャラリーで展示する計画も進めており、学生の作品が国際的なクリエイターの前で披露される予定だ。デジタルファッション市場が急拡大する中、「物理とデジタルを両方扱えるデザイナー」を育てる教育機関は世界でまだわずかしかない。文化服装学院の取り組みは、その最前線に位置する。

▲ 文化服装学院の卒業生がRoblox Studio上で制作した3Dファッションアイテムを披露するバーチャルファッションショー
4日間で進路が変わる——N高のRobloxゲーム制作ワークショップ
2025年8月4日から7日、電通グループとGeekOut株式会社は、N高等学校・S高等学校・R高等学校から選抜した13名の高校生を対象に、Roblox Studioを使ったゲーム制作ワークショップを開催した(電通グループ公式)。3日間は電通本社で、最終日は新宿代々木キャンパスで実施。講師陣はAnthony Cloudy・Darren Nguyen・Jennifer Towneといった現役の海外クリエイターに加え、N高出身の日本人クリエイターであるinutataさん・eieiさんが名を連ねた。
目標は「Robloxのゲームを一本完成させること」。参加者はObby(障害物コース)というジャンルに取り組み、難易度設計から世界観の構築まで、個性の異なる13作品を4日間で仕上げた。参加後の満足度は平均4.9/5.0を記録した。注目すべきは、ワークショップ実施にあたって行われた参加者への事前調査だ。79.4%が「学校でのプログラミング学習の実用性を実感できていない」と答え、75.0%が「実際に作る・試す機会を増やしてほしい」と回答した。
ところが、ワークショップ後には70%以上が「ゲーム制作の体験が進路の選択に影響した」と報告した。学習内容そのものより、「実際に動くものを作りきった」という体験が変化を引き起こした。「デザインが好きだと初めて気づいた」「ゲームへの関わり方が変わった」という声が残っている。学校のプログラミング授業に欠けているのは、教える内容ではなく「作って世界に出す」というプロセスかもしれない。

▲ 電通グループとN高等学校が共同開催したRoblox Studioゲーム制作ワークショップ(2025年8月、電通本社)。13名の高校生が現役クリエイターの指導のもとゲームを制作した
RobloxがBBCやGoogleと組む——Learning Hubが変える「教育コンテンツへのアクセス」
2025年7月21日、Robloxは新たに「Learning Hub」を全ユーザーに公開した(Roblox IR)。アプリの「More」タブ内にある「Learn」アイコンからアクセスできるこのハブには、BBC Bitesize・Sesame Workshop・Google・ミュージアム・オブ・サイエンスが提供する教育コンテンツが集約されている。対象科目は理数・コンピューターサイエンス・アート・生活スキルから脳トレまで幅広く、学年・科目レベルでの絞り込みも可能だ。
Learning Hub内の主要コンテンツには、火星探査機を設計してMission:Marsに挑む「Mission: Mars」(ミュージアム・オブ・サイエンス×Filament Games制作)、生物医学の視点で体内の病原菌と戦うProject Lead the WayのPathogen Patrolが含まれる。後者は全米の150,000人以上の高校生が生物医学サイエンスプログラムの一環としてアクセスしており、カリキュラムと連動した使われ方をしている。BBC Bitesizeが新たに開発したPlanet Planners(11〜14歳向け)は、地理の授業で活用できるよう設計されている。
Robloxが教育に本気で取り組んでいることは、数字にも表れている。Rebecca Kantar教育部門長がLearning Hub立ち上げを宣言したとき、Robloxはすでに「2030年までに1億人の学生の学習を支援する」という長期目標を掲げていた。DAUが1億4,400万人規模のプラットフォームに教育コンテンツを統合するという選択は、子どもが毎日ログインする場所にカリキュラムを運ぶという戦略だ。学校側が「Robloxを教室に持ち込む」のではなく、Robloxが「カリキュラムを子どもたちの居場所に持ち込む」という逆転がここで起きている。

▲ 2025年7月にローンチしたRoblox Learning Hub。BBC Bitesize・Sesame Workshop・Googleなどが提供する教育コンテンツに、アプリ内の「Learn」タブからアクセスできる
日本でRoblox教育が広がる条件——「作る体験の欠如」という課題とRoblox Studioの可能性
日本では2020年に小学校、2021年に中学校でプログラミング教育が必修化された。しかし「作る・試す機会が欲しい」と答えた高校生が75%に達するN高ワークショップの調査結果は、必修化が「実感を伴う体験」には直結していないことを示している。授業でプログラミングを学んでも、自分が作ったものが誰かに遊ばれる体験は得られない——Robloxが提供するのはまさにその部分だ。
Roblox Studioは無料で使えるゲーム開発ツールで、Luaというスクリプト言語を通じてプログラミングの基礎を学べる。完成したゲームはそのままRobloxプラットフォームに公開でき、世界中のプレイヤーにプレイされる可能性がある。さらに収益化の仕組みであるDevEx(Developer Exchange)を通じて、ゲームが評価されれば収入も生まれる。N高の関連スクールN Code LaboはRobloxを活用した「ゲームデザイン入門」コースをサマースクールとして提供しており(N Code Labo)、プログラミングスクールでのRoblox採用も増えている。
課題がないわけではない。Robloxを授業で活用するには教員側のRoblox Studio習熟が必要であり、学校のPC環境によってはインストールや通信制限の問題も生じる。子どもの安全管理(オンライン上でのコミュニケーションリスク)についても、保護者・学校側の理解が欠かせない。しかし文化服装学院やN高の事例が示すように、専門家サポートがある環境では高校生・専門学校生が短期間で「公開できるレベルのコンテンツ」を作りきれる。日本の教育現場でRobloxが広がる条件は、教員研修と安全ガイドラインの整備、そして「失敗しながら作る」を許容するカリキュラム設計だ。

▲ Roblox Studioのコーディング画面。Lua言語で書かれたスクリプトでゲームロジックを実装できる。プログラミング初心者向けの無料チュートリアルも充実している

